自社の中で動くAI、その可能性とは?

近年「生成AI」という言葉が広く浸透しましたが、その多くはクラウド上の巨大な計算資源を利用しています。つまり、AIを使うためにはインターネット接続が前提でした。しかし今、新しい潮流として注目されているのが「ローカルLLM(Large Language Model)」です。これは、クラウドに依存せず、自社のPCやサーバーなど“手元の環境”で直接AIを動かせる仕組みを指します。

 

ローカルLLMの利点は大きく三つあります。

第一に「セキュリティとプライバシー」です。従来のクラウドAIでは、質問内容やデータが外部のサーバーを経由することが避けられませんでした。ローカル環境で動作するLLMなら、社外にデータを送る必要がなく、機密情報を扱う業務でも安心です。

第二に「オフライン利用やシステム独立性」。クラウドAIは常にインターネット接続が必要ですが、ローカルLLMは自社ネットワークや端末内で動作します。そのため、通信環境が不安定な現場や閉域ネットワーク内でも利用でき、クラウド障害や外部サービスの仕様変更に左右されにくい点が強みです。

第三に「柔軟なカスタマイズ」。企業が自社のナレッジや文書を学習させることで、業務に即した回答を得やすくなります。クラウド型AIの“一般的な答え”ではなく、自社特有の知識を反映した“自分専用のAI”を持てることは、大きな競争力につながります。

 

こうした特徴から、ローカルLLMは単なる技術的な選択肢ではなく、企業にとって「知識資産を守りながら活かす」ための新しい手段といえるでしょう。

クラウドAIが“公共の図書館”だとすれば、ローカルLLMは“自社専用の書庫”。そこに眠る情報を自在に引き出し、組織の強みへと変えていく力が求められています。

 

用語解説

  • 生成AI
    文章や画像など、新しいコンテンツを自動的に作り出すAI。ChatGPTや画像生成AIが代表例。
  • LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)
    膨大なテキストデータを学習したAI。自然な会話、要約、翻訳、知識検索などが可能。
  • ローカルLLM
    クラウドに依存せず、自社のPCやサーバー上で動作するLLM。データを外部に出さず利用できるのが特徴。
  • クラウドAI
    インターネット経由で利用するAI。Microsoft CopilotやChatGPTなどが代表例。外部サーバーに依存する。
  • 閉域ネットワーク
    インターネットに接続せず、社内だけで閉じたネットワーク。金融や医療など高いセキュリティが必要な現場で利用される。
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執筆者: 綾部 一雄(株式会社クロスディーズ 代表取締役)

ネットワーク維持管理、システム開発、ベンダー調整のスペシャリスト。前職では、600名以上の介護事業所で、介護事業用ソフトの導入や契約の電子化、テレワークシステムの導入等に幅広くに携わる。2021年より、株式会社佐々木総研にて業務効率化のためのロボットや最新技術を活用した開発を行っている。