DXの取り組みを始めても、多くの企業では途中で止まってしまいます。理由はシンプルです。「プロジェクト」としては動いても、「文化」として定着していないからです。
システムを導入したり、研修を行ったりすることはできます。しかし、それが一過性の取り組みに終われば、数年後には別の課題に押し流されてしまいます。
本当に強い組織を作るには、DXを企業文化として根付かせることが不可欠です。
■DXを文化にするとはどういうことか
文化とは「社員一人ひとりが当たり前にやる行動や考え方」です。
挨拶をする、日報を書く、安全確認を怠らない──どの企業にも共通する“当たり前”があります。DXも同じで、「データを残す」「数字を基に議論する」「効率化を工夫する」といった行動が習慣化されたとき、初めて文化になります。
DXを文化にするとは、「特別なプロジェクト」から「日常の当たり前」へと変えることなのです。
■データと戦略をつなぐ循環
そのための鍵は、データと戦略を循環させることです。
- 現場がデータを入力・蓄積する
→ Part 1 で述べたように、入力は未来の資産形成。 - 経営者が戦略として語る
→ Part 2 のように、「なぜ必要か」「どう活かすか」を経営者自身の言葉で示す。 - その戦略に基づいて現場が改善に取り組む
→ データが業務効率化や新しい価値創出につながる。 - 改善結果が再びデータとして蓄積される
→ そのデータを見て経営者が次の方向を語る。
この循環が回り始めれば、DXは一過性ではなく、組織を前に進める駆動力となります。
■小さな成功を積み上げる
中小企業にとって重要なのは、いきなり大規模に文化を変えようとしないことです。
「請求書を紙からデジタルに変えた」
「顧客管理をスプレッドシートで統一した」
「営業会議で感覚ではなく数字を出すようにした」
こうした小さな成功が積み重なると、社員の中で「デジタルは役に立つ」という実感が育ちます。この実感こそが文化形成の第一歩です。
■経営者が果たすべき役割
文化を根付かせるのは社員一人ひとりの行動ですが、その方向を示し続けるのは経営者の役割です。
- なぜやるのかを繰り返し語る
- 小さな成功事例を称賛する
- データに基づいた意思決定を自ら実践する
この三つを経営者自身が体現すれば、社員も自然と同じ方向に動きます。逆に、経営者が従来通りの感覚的な判断に戻ってしまえば、せっかくの取り組みも定着しません。
■おわりに
DXはシステム導入のことではなく、文化づくりのことです。
データを資産とみなし(Part 1)、経営者がその意義を語り(Part 2)、それを現場に循環させる(Part 3)。この流れが定着したとき、DXは特別な言葉ではなく、企業の“当たり前”になります。
そしてそのとき、企業は変化に強く、持続的に成長できる組織へと進化していきます。
DXを文化として根付かせる──これこそが中小企業にとっての最終的なゴールなのです。

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執筆者: 赤嶺 奈美(株式会社クロスディーズ プロジェクト進行統括マネジャー)
教育学部を卒業後、株式会社佐々木総研に税務課社員として入社。その後、総務課に異動し、請求業務や勤怠管理に携わる。2019年のICT活用推進課の発足時から所属し、社内文書の電子化やRPAの開発に取り組む。IT未経験から社内DXを推進した経験を活かし、現場視点での業務改善支援やローコードツール研修を担当している。