Part2_DX戦略は「語れるか」で決まる ~経営者の言葉が変革を動かす~

「DX戦略を作る」と聞くと、多くの中小企業の経営者はこう思うかもしれません。
「うちにはそんな大層なものはまだない」
「戦略なんて考える前に、目の前の業務を回すので精一杯だ」

実際、その感覚は正しいのです。多くの中小企業にとって、立派な戦略資料やロードマップを整えることよりも先に大切なのは、経営者自身が社員に“なぜデジタルが必要か”を語れるかどうかだからです。

■戦略は「完璧」である必要はない

大企業では、外部コンサルと共に何十ページものDX戦略書を策定することがあります。しかし中小企業にとって、それは現実的ではありません。むしろ重要なのは「今の自社にとってデジタルがなぜ必要か」をシンプルに言語化し、経営者自身の言葉で社員に伝えることです。

たとえば、

  • 紙の管理に時間を奪われているからデジタル化する
  • 顧客の声を集めて次の商品に活かすためにデータを残す
  • 将来の人手不足に備えて自動化を始める

この程度で十分です。戦略は立派である必要はなく、まずは「軸」を明確にすることが大切です。

■語れない戦略は存在しないのと同じ

社員にとっては「会社がどこに向かうのか」が最も気になります。経営者が何も語らなければ、現場は従来のやり方を続けるだけです。逆に、経営者が繰り返し同じ方向性を語れば、少しずつ社員の意識は変わります。

「説明できない戦略は、存在しないのと同じ」
これは大企業でも中小企業でも変わらない真実です。

■「翻訳」と「反復」がカギ

経営者が語るときに重要なのは二つです。

  1. 翻訳すること
    難しい言葉や抽象的な表現ではなく、社員の日常業務に引き寄せて説明する。
    例:「データを集めると顧客分析ができる」ではなく「入力しておけば次回の見積もりが早くなる」。
  2. 反復すること
    一度言っただけでは浸透しません。朝礼や会議、雑談の場でも繰り返し伝えることで、ようやく文化になります。

この二つを続けられるかどうかが、DXのスピードを左右します。

■戦略を「語ること」自体がリーダーシップ

経営者の役割は、完璧な戦略を持つことではありません。社員に方向性を語り、未来を示すことです。多少荒削りでも、自分の言葉で語ることが社員の共感を呼びます。

データ入力を投資と捉える文化を根付かせるのも、AIや自動化に向けた第一歩を踏み出すのも、すべては経営者の言葉から始まります。

■おわりに

DXは「戦略資料を作ること」から始まるのではありません。
経営者が「なぜデジタルが必要か」を社員に語れるかどうか、そこが出発点です。

戦略は「存在する」ことよりも、「語られる」ことで初めて意味を持つ。
中小企業にとってのDXの第一歩は、経営者が未来を自分の言葉で語ることにほかなりません。

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執筆者: 赤嶺 奈美(株式会社クロスディーズ プロジェクト進行統括マネジャー)

教育学部を卒業後、株式会社佐々木総研に税務課社員として入社。その後、総務課に異動し、請求業務や勤怠管理に携わる。2019年のICT活用推進課の発足時から所属し、社内文書の電子化やRPAの開発に取り組む。IT未経験から社内DXを推進した経験を活かし、現場視点での業務改善支援やローコードツール研修を担当している。