3970億の知識から必要な170億だけを使う、賢い仕組み
アリババグループのQwenチームが公開した最新AIモデル「Qwen3.5-397B-A17B」は、圧倒的な知識量を誇りながら、実際の処理にはそのごく一部しか使わないという画期的な仕組みを採用しています。「賢さ」と「効率」を両立させるこの技術が、社会にどのような影響を与えるのかを紐解きます。
知識の「引き出し」を賢く使い分けるAI
AIの世界では長らく、「パラメータ(AIの内部の調整可能な数値)が多ければ多いほど賢い」と考えられてきました。たしかにパラメータを増やすことでAIは様々な知識を身につけ、複雑な推論ができるようになります。しかし、その一方で「動かすために膨大な電力を消費する」「高性能なコンピューターを何十台も並べなければならない」といった実用面での壁が存在していました。
今回公開された「Qwen3.5-397B-A17B」は、この壁を乗り越えるための興味深いアプローチをとっています。モデルの名前にある「397B」は全体のパラメータ数が3970億個であることを示し、「A17B」は実際に動く(アクティブな)パラメータ数が170億個であることを示しています。
つまり、データベースのように膨大な知識やパターンを内部に蓄えながら、いざ質問に答えるときには、その質問に関連する「特定の専門分野だけ」を呼び出して処理を行っているのです。この仕組みは「MoE(Mixture of Experts)」と呼ばれており、何百人もの専門家が待機している中から、案件に最も適した数人の専門家だけを選抜して仕事を任せるようなやり方です。これにより、計算による負荷を大幅に抑えつつ、巨大なAIにも引けを取らない高い性能を発揮します。
100万字に迫る文脈を理解する力
Qwen3.5のもう一つの大きな特徴は、一度に読み込める文章の長さです。初期設定でも約26万トークン(文字や単語の塊)、最大で約101万トークンもの情報を一度に処理できる仕様となっています。
これは、長編小説や分厚いマニュアル、何百枚もの会議の議事録などを丸ごと一度に入力し、そこから必要な情報を抽出したり要約したりできることを意味します。これまでのように「長い文書を少しずつ分割して読み込ませる」といった手間がなくなり、文脈の全体像を正確に保ったまま高度な分析ができるようになります。日々の情報整理や資料作成において、このような大容量のデータ処理能力は大きな武器となるはずです。
「ツールを使いこなす」という新たな主役
また、Qwen3.5は「ツール呼び出し(Tool Calling)」に優れている点も指摘されています。これは、AIが自分自身の知識だけで回答するだけでなく、必要に応じて外部のシステムを利用できる能力です。
たとえば、「現在の天気」や「最新の株価」はAIの学習データには含まれていません。しかし、ツール呼び出しに優れたAIであれば、自ら「ブラウザで検索する」あるいは「専用のWebサービスに接続して最新情報を取得する」という手順を計画し、実行することができます。
このように、ただ人間と対話するだけのプログラムから、自律的に道具を使いこなし、課題を解決していく「エージェント(代理人)」としての役割へと、AIは着実に進化を遂げています。効率的でありながら強力な基盤を持つQwen3.5のような存在は、その実用化をさらに加速させるでしょう。
用語解説
パラメータ
AIが学習を通じて獲得する内部の数値のこと。一般にこの数が多いほど、AIは複雑で高度な処理ができるとされる。MoE(Mixture of Experts)
AI内部に複数の「専門家モジュール」を用意しておき、入力された課題の性質に応じて、必要な専門家だけを選んで動かす設計。処理全体を動かす必要がないため効率が良い。トークン
AIがテキストを処理する際の最小単位。英語では単語やその一部、日本語では文字や単語の断片などが1トークンに相当する。
出典・参考情報
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執筆者: 綾部 一雄(株式会社クロスディーズ 代表取締役)
ネットワーク維持管理、システム開発、ベンダー調整のスペシャリスト。前職では、600名以上の介護事業所で、介護事業用ソフトの導入や契約の電子化、テレワークシステムの導入等に幅広くに携わる。2021年より、株式会社佐々木総研にて業務効率化のためのロボットや最新技術を活用した開発を行っている。
