最近、インターネットやニュースサイトで「人工知能(AI)」や「深層学習(ディープラーニング)」という言葉を目にしたことがあるかもしれません。深層学習は、AIの中でも特に重要な技術で、スマートフォンの顔認識機能や音声アシスタント、自動運転車などに活用されています。このコラムでは、深層学習がどのように機能しているのかをわかりやすく説明していきます。
1. 人工知能・機械学習・深層学習の違い
まずは、人工知能、機械学習、深層学習の違いを明確にしておきましょう。この理解が深層学習をよりよく理解するための第一歩です。
人工知能(AI):AIとは、人間のように学習したり、推論したりしてさまざまなタスクを行うシステム全体を指します。AIはコンピュータによって実現される、知能を持つと考えられる行動全般です。たとえば、スマートスピーカーが人間の声を理解して返答する機能もAIの一部です。
機械学習(ML):AIの一部で、データから自ら学び、ルールを見つけ出す手法です。機械学習では、プログラムがデータを使ってパターンを学習し、自分で判断を行います。たとえば、メールのスパム判定など、特定のルールに基づかずに大量のデータから「スパムメール」を学び取ることができます。
深層学習(DL):機械学習の一種で、大量のデータを使って高度な特徴を捉える技術です。特に、ニューラルネットワークという仕組みを使い、複雑なデータから階層的に情報を学習します。深層学習の特徴は、多くの層(レイヤー)を使ってデータを処理することで、画像や音声などの複雑な情報も扱える点です。
これらの違いを理解することで、深層学習がAI技術の中でどのような位置付けにあるかを把握しやすくなります。
2. ニューラルネットワークとは?
深層学習の中心にあるのが**ニューラルネットワーク**です。これは、人間の脳をモデルにして構築されたもので、多層の「ニューロン」が情報を処理していく仕組みです。ニューラルネットワークは、データを入力から出力まで流す過程で、複数の層を使って情報を少しずつ高度に処理していきます。
ニューラルネットワークは、以下の3つの層から成り立っています:
入力層:データを最初に受け取る部分です。例えば、画像や音声などのデータがここに入力されます。
隠れ層:入力されたデータの特徴を抽出するために、複数の層が存在します。この「隠れ層」が増えるほど、より複雑な特徴を捉えられるようになります。たとえば、最初の隠れ層では画像の輪郭を認識し、次の層では形を理解し、さらに次の層で色や質感を識別するなど、順番に情報を高度にしていきます。
出力層:最終的に結果を出す部分です。例えば、「犬か猫か」を判断する場合、出力層から「犬」や「猫」という結果が出てきます。
ニューラルネットワークは層が深くなるほど、より高度な学習を行うことが可能になり、これが「深層学習」と呼ばれる理由です。層の数が多いほど、データの微細な特徴を捉えることができ、複雑な問題に対しても高精度の予測が可能となります。
3. 深層学習モデルの仕組み
深層学習モデルは、複数の隠れ層を持つニューラルネットワークです。これにより、大量のデータから微細なパターンを学び、高い精度で予測や分類が可能となります。
データの入力:まず、画像、音声、テキストなどのデータを入力します。このデータは、コンピュータが扱いやすい形(例えば数値)に変換されます。
特徴の抽出:隠れ層でデータが階層的に処理され、特徴が抽出されます。例えば、画像ならば、最初にエッジ(輪郭)が認識され、その次に形状が識別されるといった具合です。人間が見ているような複雑な画像でも、コンピュータは何度も計算を繰り返して、その中に隠れた特徴を見つけ出します。
結果の出力:最終的に得られた特徴を基に、モデルが「これは何か」を判断します。例えば、猫の写真を入力したら、「猫である」と判断するように、これまで学習してきたデータに基づいて結果を導き出します。
深層学習では、層が多いほど、より細かな特徴を抽出することができるため、精度の高い判断が可能になります。これが自動運転車や医療診断システムなどで深層学習が使われる理由です。
4. 深層学習の応用例
深層学習モデルは私たちの日常でも活用されています。その代表的な例をいくつか紹介しましょう。
画像認識:SNSでの顔認識や、スマートフォンでの写真分類機能、自動運転車が周囲の状況を把握するための技術としても利用されています。例えば、友達と一緒に撮った写真をアップロードすると、自動的に顔を認識してタグ付けする機能があります。
音声認識:スマートスピーカーやスマートフォンの音声アシスタントが、私たちの話した内容を理解し、指示に従う仕組みです。「明日の天気は?」と尋ねると、その質問を認識して返答するのは、深層学習モデルが音声を解析しているからです。
翻訳システム:Google翻訳などの翻訳システムでも深層学習が使われています。文章を入力すると、それを別の言語に翻訳する際に、文法や語彙の意味を理解して自然な表現に変換しています。
これらの応用例を通じて、深層学習がどれほど私たちの生活を豊かにしているかが分かります。例えば、自動運転技術は交通事故の削減を目指しており、医療の分野では診断の精度を向上させるなど、社会に大きな貢献をしています。
5. 深層学習の課題と未来
深層学習は多くの可能性を秘めていますが、まだいくつかの課題も抱えています。
大量のデータが必要:精度の高い結果を得るためには、非常に多くのデータが必要です。例えば、猫と犬を区別するモデルを作るには、何千枚、何万枚もの画像が必要です。
計算資源の負担が大きい:訓練には大規模な計算が必要であり、専門的な機材が求められます。GPU(グラフィックス処理装置)と呼ばれる高性能なチップがないと、大規模な深層学習の訓練は非常に時間がかかります。
結果の解釈が難しい:なぜその結果になったのかを理解しにくいことがあり、これが「ブラックボックス」と呼ばれる問題です。深層学習モデルは非常に多くの層と計算を経て結果を出すため、その過程を人間が完全に理解するのは難しい場合があります。
これらを克服するために、少ないデータで効率的に学習できる転移学習や、結果をわかりやすくする説明可能AI(XAI)などの技術が注目されています。転移学習を使うことで、例えば動物の種類を認識するモデルを人間の顔認識に応用することができ、データが少なくても高い精度を得ることが可能になります。
深層学習は、新たな技術とアイデアによって日々進化しています。例えば、医療の個別化により患者に合わせた治療を提供したり、農業では作物の成長を管理し収穫の最適化を図るなど、さまざまな分野で広がりを見せています。
最後に
深層学習とは、大量のデータを使って学習することで、さまざまな技術に役立てられる方法です。例えば、スマートフォンの顔認識や音声アシスタント、自動運転の技術など、私たちの日常生活に溶け込んでいる多くの場面で深層学習が活用されています。これを知るだけでも、深層学習がどのように便利さを支えているのかがわかるでしょう。
用語解説
- 人工知能(AI):人間のように学習し、推論し、タスクを行うシステム。
- 機械学習(ML):データを基にパターンを学習し、自ら判断を行う手法。AIの一部。
- 深層学習(DL):ニューラルネットワークを使い、大量のデータから高度な特徴を捉える技術。機械学習の一種。
- ニューラルネットワーク:人間の脳の構造を模倣し、層を通じて情報を処理する仕組み。
- 入力層・隠れ層・出力層:ニューラルネットワークの構成要素。入力層はデータを受け取り、隠れ層で処理し、出力層で結果を出す。
- 転移学習:別の領域で学んだ知識を新しいタスクに応用する技術。
- 説明可能AI(XAI):AIの判断の根拠をわかりやすく説明する技術。

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執筆者: 綾部 一雄(株式会社クロスディーズ 代表取締役)
ネットワーク維持管理、システム開発、ベンダー調整のスペシャリスト。前職では、600名以上の介護事業所で、介護事業用ソフトの導入や契約の電子化、テレワークシステムの導入等に幅広くに携わる。2021年より、株式会社佐々木総研にて業務効率化のためのロボットや最新技術を活用した開発を行っている。